「賢淵」
むかしなぁ、一人の若ぇもんが崖を下り淵の上に突き出た大きな岩にのって釣りをはじめたんだと。この淵はなぁ、広瀬川が高い岸にぶつかっていたもんでふかいふかい淵でなぁ、魚がいっぱい泳いでいたんだと。
ところが、しばらくまっていてもいっこうに釣れねぇもんだから
「一服してまつべなぁ」
とたばこをぷかーり、ぷかーりすいながらまっていたんだと。若ぇもんはねっころがりながら煙草を吸っていたところ、なんだか足の方がむずむずしてきたんでなぁ。
「なんだぁ、虫でもいるべかぁ」
と思い足を見ると一匹の小さな蜘蛛が淵からあらわれては、若ぇもんの足首に糸を出しながらなんどもなんども淵からあらわれては若ぇもんの足首に糸をかけたんだと。 たばこをすい終わった若いぇもんが立ちあがろうとした時、
「この糸を切ってしまうのももったいないべ」
と思ったもんで、そっと足首からはずして近くにあった木にかけたんだと。
そうしたら、
どどどどどどどどどどどどどどどどどど、
と淵から大きな音がして若ぇもんが糸をかけた木が根元から引っこ抜かれて、あっという間に淵の中に落ちてしまったんだと。
淵のからは
「賢い、賢い」
という声が聞こえたんだと。若ぇもんは青い顔して逃げ帰ったんだと。 それからというものなぁ、この淵を「賢淵」と呼ばれるようになったんだと。
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「河怪之事(「耳袋」巻七)」七都(なないち)と名乗る座頭の話だった。 上総国夷隅(いすみ)郡大野村(千葉県夷隅郡夷隅町大野)出身で二四才の時に目が見えなくなったそうだ。
彼が二二、三才の時、村の近くにある川には深い場所があり対岸は竹やぶが生い茂り、昼間でも日陰のせいで暗く寂しいところではあるが魚がたくさん連れるという話を聞き、釣りをしていた。
待っていると、水中から蜘蛛が出てきて足の指に蜘蛛の糸っかけてはまた水中に入り、また出ては糸を指にかけるのを何度も糸をかけていくうちに足首にまで達した。 そこで、ひそかに足首から杭に糸をかけてどうなるものか待っていると、水中から 「よしかよしか」 というので藪の中にて 「よし」 と答えると杭の木が半分より折れてしまい驚いて逃げた、と語った。
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