史談 松林蝙也斎
鞍馬山で天狗に稽古つけてもらったのは牛若丸だけどなぁ、そのむかし浅間山の天狗にけいこをつけてもらって剣術を学んだっていう剣士が仙台藩にいたんだと。なんでも飛んでいるハエの首を切り落としたりとか、川沿いの柳の葉が水に落ちるまでに13個に細切れにするんだとかいわれていてなぁ、その剣士は松林左馬助といってなぁ。伊達藩のお抱えの剣術指南役だったんだと。 「伊達藩にはそのような剣士がいるもんならぜひ見てみたい」 って江戸の将軍様がいうもんだからなぁ、伊達のお殿様は左馬助をつれて江戸に行ったんだと。将軍様の目の前に現れた左馬助を見てなぁ、もう六十歳になろうかというおじいさんだったもんで将軍様は内心がっかりしていたんだと。 んだどもいざ試合が始まるとなぁ、その身のこなしは六十歳どころかまるで江戸の名ある剣士よりも機敏に動いてなぁ、何よりも驚いたのは相手の刀に身軽に飛びのったり、屋根に飛び乗ったりと、相手を翻弄しては相手に打ち込んでいったんだと。その姿たるや、将軍様は袴のすそが飛ぶたびにひらひらするもんでなぁ 「あっぱれ、その姿蝙蝠の如し」 といってなぁ、左馬助にたくさんのご褒美と蝙蝠のような剣術であるから「蝙也斎」という名前を与えたんだと。このときは六十歳だっただども亡くなる七十五歳までなぁ、毎日剣をふっては弟子に稽古をつけていたんだと。 そんな蝙也斎だけど、たった一度だけ負けてしまった事があったんだと。 蝙也斎は家に三年間だけと期日を決めて雇っている女中らがいてなぁ、 「わしを驚かせる事ができたら三年分の賃金を払って暇をとらせよう」 っていったんだと。 蝙也斎にとってはたわごとだったんだども女中らはなぁ、なんとかして三年分の賃金がほしくてほしくて昼夜とわず蝙也斎を観察したんだと。んだども、さすがは仙台藩の名剣士なもんだから隙がぜんぜんなくてなぁ、だれも驚かす事ができなかったんだと。 そんなある日の事、蝙也斎が家に帰ってくると一人の女中が足洗うためのお湯を桶ん中に入れてもってきたんだと。早速、蝙也斎が足を洗おうとするとそのお湯が熱くてなぁ、 「水をうめよ」 って女中に言ったんだと。女中は桶ん中に水をうめたんだと。 「あっちっちー」 蝙也斎が足を入れるとあまりの熱さにそれはそれは蝙蝠のごとく飛び上がってしまったんだと。女中がいれたのは水ではなくあつーいお湯でなぁ、ひそかに蝙也斎を驚かす機会をうかがっていたんだと。この女中は三年分の賃金をもらって家に帰ったんだと。 あまり策にとらわれないで平凡な事ほど効果がある、ってなぁ。蝙也斎はこのことを肝にめいじて剣の道に励んだんだとさ。 まんが日本昔ばなしの本をお探しの方はこちら ![]() |
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