吉備津の釜〜後編〜
さてと昨日のつづきからじゃな。 駆け落ちした正太郎と袖は袖の親類である彦六の家さ身を寄せたんだと。んだども幾日もしねえうちに袖が苦しみだしてなぁ、正太郎と彦六は看病を続けたんだどもついに袖は死んでしまったんだと。これに正太郎はわんわん泣き出してなぁ、弔った後もこれからどうすればいいかわからねかったんだと。 ある日のこと、袖の塚さ行ってみっと隣さ新しい塚ができていてなぁ、娘さんが花を持って弔いさきていたんだと。これを見ていた正太郎が声をかけるとなぁ、娘は 「私が宵に参りにいくと必ずあなた様が先にいらっしゃいます。忘れることができないかたとお別れになられたのでしょう。この塚は私のご主人様の墓で奥様が病のためにかわりに私がお参りに来ているのです」 ってなぁ。これを聞いた正太郎は 「奥方が住んでいるのはここより近いのだろうか。連れをなくしたもの通し、慰めあいたいものです」 っていったんだと。そしたら娘は正太郎を連れて家さ連れて行ったんだと。中さ入ってまっているとなぁ、娘が奥から出てきて部屋さ連れて行ったんだと。そして屏風ごしになぁ、 「連れをなくした通し、慰めあおうと思いあつかましくもやってきました」 っていうとなぁ、奥方が屏風からそっと顔をだして 「またお会いいたしましたね。これまでの仕打ちの報いをお知らせしましょう」 っていうもんでなぁ、顔を見てみっとそれは青い顔した磯良であってなぁ、正太郎はあまりのことに気絶してしまったんだと。 気がついていみっと家だと思ったのはお堂であってなぁ、あわてて家さ戻り彦六にこのことを話したんだと。彦六は狐か狸でも化かされたもんだと思ってなぁ陰陽師のところさ連れてってみそぎをしてもらうことにしたんだと。そしたら陰陽師は 「そなたは今晩にでも命がつきるであろう。今日から四十二日の間、戸を閉めてこ一歩も外に出るではないぞ。間違えても外に出てしまっては死から逃れることはできないぞ」 といわれてなぁ、正太郎の体から足から文字をかいて、護符を家中さ貼って中に閉じこもったんだと。 夜もふけてきたころ、正太郎が部屋の中でじっとしているとなぁ、 「あぁ憎たらしい!こんなところにお札がはってあるぞ」 とそれはそれは恐ろしい声でなぁ、夜が明けたら急いで彦六の家の壁をたたいては昨夜のことをしゃべってなぁ、それならばと次の日の夜は彦六も一緒に起きていたんだと。そしたら正太郎がこもる部屋の窓に赤けえ光がさしこんでな、 「あぁ憎たらしい!ここにも札がはってある」 ってこの世のもんとはおもえねえすさまじい声が聞こえてなぁ、二人とも気を失ったんだと。こんなことがあってからまいばんまいばん夜が明けるのをまっては、昨晩の出来事をかたりあってなぁ、日に日に声が恐ろしくなったんだと。 ようやく四十二日目の夜になり、今晩さえすごせれば終わるもんでなぁ。正太郎は特に注意して部屋にこもっていたんだと。そしたらだんだん空があけてきてなぁ、正太郎は壁越しに彦六を呼んだんだと。 「ここまでの間、あなたの顔を見ておりません。早くお会いしてこれまでのことを話して気晴らしをしたいと思います」 って言ったんだと。彦六も 「もう何も心配はいりません。はやくこちらへいらしてください」 ってなぁ、正太郎が戸を開けると うわっ って叫び声が響いてなぁ、彦六はしりもちついちまったんだと。こりゃあ正太郎のみに何かあったに違いねえってんであわてて斧もって外さ飛び出すと、明けたはずの空がまだ暗く月がぼうっと光っていてなぁ正太郎の家さはいってみっと戸があかったままで家ん中にも表にも正太郎の姿を見つけることができねかったんだと。 戸口の壁さ血が流れ落ち、軒先に男の髪の髻(もとどり)がゆらゆらと・・・ まんが日本昔ばなしの本をお探しの方はこちら ![]() |
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