雨月民話風呂
メールマガジン民話万象でご紹介いたしました民話の再編集や、時節に応じました民話の紹介を行っております。 また、時折雨月物語についてもふれていきたいと思います
第八十九話 栄存法印 後編
栄存法印 後編


むかしなぁ、石巻の長禅寺に栄存法印ちゅうお坊さんが住んでいたんだと。昔は仙台の新寺にいたんだども名僧の評判が高くてな、笹町家によってわざわざ呼ばれたんだと。栄存は石巻の発展につとめてなぁ、北上河口工事でもなんどもなんども雨がふるたびに河が氾濫してなぁ、そのたびに泥や砂が堆積ってその処理におわれるもんだからちっとも工事がすまなかったんだと。それを聞いた栄存が一心不乱に祈祷しつづけっとな、にわかに空が暗くなりあたり一面に大雨が振り出してなぁ、今まで積み重なった泥や砂が押し出されていったんだと。それからというもの工事は順調に進んだもんだから、いままで以上に栄存法印は地元のもんに慕われるようになったんだと。

んだども笹町家の代が変わって孫の笹町新左衛門頼重の代さなっと頼重は栄存の名声をねたんでなぁ、特に栄存の姪である楓ちゅうなんとも美しい娘さんがいてなぁ、頼重が妾に使用ともしたんだども楓自身だけでなく栄存もそれを拒んだんだと。頼重は役人と結託したり町のもんを脅したりしてなぁ、栄存の罪状をでっちあげて連判で訴えたんだと。罪状にゃあ栄存の見に覚えのないことばかり書いていてなぁ、特に戒律を守っている栄存にとって姪の楓と通じていたとまでいわれてなぁ、いくら栄存が訴えても頼重は役人を抱きこんでいたもんでなぁ、とうとう島流しされることになったんだと。町のもんは誰もが頼重のたくらみだっちゅうことはわかっていたんだども、それを口にできるもんがいなくてなぁ、ただ一人高橋太治右衛門が最後まで栄存法印の無実を訴え続けたんだと。それを聞いた栄存は太治右衛門さお札を与えたんだと。

さて、栄存が江ノ島さ流されるとなぁ、そこでも病人を祈祷したりして治すもんだから島のもんの信頼をえたんだと。栄存は時々、岩の上さすわり石巻の方向さ印をむすんでいたんだと。ふしぎとそのたび石巻さ大火が起こったんだと。んだどもお札が貼ってある高橋家だけは何度火事が起こっても焼けるおちることはなかったんだと。

そんな栄存にも死期が訪れてなぁ、
「わしが死んだ後は鰹節を口にはさめ石巻さ向かい逆に埋めてほしい」
って言い残して死んでしまったんだと。
島のもんはいくらなんでも栄存法印を逆さに埋めるのはむごいように思えてなぁ、結局普通に埋めたんだと。そしたら江ノ島さ疫病が流行りだしてなぁ、島のもんが次々と倒れていったんだと。これは栄存法印のたたりさちがいねぇってことになってなぁ、栄存の遺言どおりに逆さに埋めたんだと。そしたら疫病はうそのようになくなったんだと。

栄存法印が亡くなってからというもの、頼重が発狂してなぁ、
「おのれ栄存め」
って何もないところさ刀を振り回すようになって、息子やら奥方をばさーっ、と切り殺してしまったんだと。それからというもの頼重の発狂はおさまらなくてなぁ、ついにそのまま狂死してしまったんだとさ。
それから五十年後に松巌寺の住職さんが藩さ訴えて栄存法印の罪を赦してなぁ、栄存神社として今でも祀っているんだと。



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【2006/06/22 19:36】 | 民話(宮城県仙台市以外) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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